鎮静・麻酔について
相手が動いてしまう獣医療では、鎮静・麻酔が必要不可欠です。
なんとなく怖いイメージがあると思うので、詳しく、具体的に解説し、不安を取り除ければと思っています。
鎮静・麻酔とは
そもそも鎮静や麻酔とはなんでしょうか?
鎮静や麻酔は以下の3つ(または4つ)の目的を達成するために行います。
意識の消失
当然ですが意識があって動かれると困ります。また、動物に恐怖を与えないためにも意識を消失させることは重要です。
鎮痛
麻酔下で行う処置は痛みを伴うことが多いので、非常に重要です。
「意識がなければ痛くないのでは?」と思われがちですがそれは間違いです。
痛みは神経で伝わるのですが、痛いという「感覚」がなくとも、痛いという「刺激」が手術中、手術後に悪影響を及ぼすことが知られています。
筋弛緩
意識がなく、痛くもないけれども、ガチガチにかたまられていたのでは検査や手術ができません。
多くの麻酔薬は筋弛緩作用を持ちますが、それで足りない場合は筋弛緩薬を投与する場合があります。
(有害反射の抑制)
麻酔をかけない、もしくは麻酔が浅いと急激な心拍数上昇や血圧の上昇などが起こります。
こういった望ましくない変化を防ぐのも鎮静・麻酔の役割です。
鎮静と麻酔の違い
実を言うと、ここからが鎮静、ここからが麻酔といった線引きはありません。
以下のリンクのように人の麻酔の分野でも、意識の程度などでグラデーションのように分類されています。
https://anesth.or.jp/files/pdf/practical_guide_for_safe_sedation_20220628.pdf
なのでイメージとしては、意識が薄れて周りへの反応が薄れているのが鎮静、意識が完全にないのが麻酔くらいの感覚です。
麻酔のリスク
よく知られていることですが麻酔にはリスクが伴います。
そして絶対に安全な麻酔は存在しません。
なので、麻酔をかけるときには、麻酔をかけることによって得られるメリットとリスクを天秤にかけて、実施するかどうかを決定します。
(絶対に事故を起こさない車はないけれども、車に乗るかどうか決めるのと理論的には同じです。)
麻酔をかけるときにリスクを見積もる方法として、最もよく使用されるのが米国麻酔外科学会(ASA)による分類です。
この方法では麻酔をかける動物を5つのグループにわけ、リスクを見積もります。
要素は様々ですが、健康なグループに属する犬猫は、麻酔の事故率が0.1%程度とされています。
0.1%の確率が高いと感じるか低いと感じるかは人それぞれですが、この確率で起こるリスクと麻酔をかけて得られるメリットを天秤にかけることになります。
高齢であることはリスクにはなりますが、ものすごく大きなリスクには分類されない点が非常に重要です。
実際の麻酔
ここからは実際の麻酔の流れについて説明します。
術前検査
まずは麻酔をかけてもいいかどうかの検査を行います。
ラハ動物病院では、身体検査、血液検査、レントゲン検査を基本としています。
結果を見てリスクの説明と実施日を決定します。
麻酔前の処置
麻酔当日は麻酔開始前から点滴を流します。これにより循環血液量が増え、電解質のバランスが整うので、麻酔時に起きる望ましくない反応への準備ができます。
また、麻酔前には各種薬剤の投与も行います。例えば、事前に軽い鎮静をかけ麻酔の導入をスムーズにしたり、あらかじめ鎮痛薬を効かせておき手術時の痛みを和らげます。
麻酔導入
点滴の管から麻酔薬を投与し、意識がなくなったのを確認した後、気管にチューブを入れます。
このチューブからガス麻酔を送り込むことにより、麻酔をかけます。
麻酔維持
麻酔をかけている間は体の中で色々なことが起こります。
心拍数が低下したり、血圧が低下したり、気付かないと事故につながるので、生体モニターで常に監視を行い、異常があれば対処します。
麻酔覚醒
処置が終了すれば麻酔から覚まします。
麻酔を維持している時は何事もなくとも、起こすときに事故が起きやすいので、気をつけなければいけません。
特に短頭種などは気管が細いため、完全に意識が回復するまでしっかりと見る必要があります。
麻酔後の管理
麻酔から完全に覚めたら入院室へ移動します。低体温気味になっている子がいたり、痛みを感じている子がいれば、都度対応します。
他にも麻酔から覚めてパニックのようになってしまう子には、怪我を防止する目的で少量の鎮静剤を投与したりもします。
まとめ
麻酔管理は怖いイメージがあると思います。
知識をつけることによって少しでも不安を取り除くことができればと思っておりますので、疑問点があればなんでも質問してください。