犬のアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は非常に有名な犬の皮膚病です。
診断までの道のりも長く、治療法が色々あってややこしい病気ですが、ぜひご理解ください。
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎とは遺伝的な素因(アトピー素因)と環境要因(環境中のアレルゲン)により引き起こされる慢性的な皮膚のかゆみのことです。
分かりにくいと思うので、「遺伝的な原因がある」・「環境中のアレルゲンに反応している」・「慢性的で付き合っていかないといけない病気である」という3点を抑えてもらえれば大丈夫です。
遺伝的な原因
遺伝的な原因があるため、特定の犬種で発病率が高いです。
日本では圧倒的に柴犬が患者さんとして多く、フレンチブル、パグなどでもよく見かけます。
環境要因
環境中のアレルゲンとされるものは複数ありますが、代表的なものは顕微鏡サイズのダニです。
慢性的な病気
残念ながらアトピー性皮膚炎は完治しません。
基本的にはお薬やスキンケアなどを行い、付き合っていく病気になります。
なので、投薬やスキンケアはできるのか、費用負担はどうかなど色々考えながら調整し、その子に応じた治療を行っていくことが重要です。
症状
症状はもちろんかゆみです。
ただ、重要なのは発症のタイミングや発症部位で、そのあたりのお話を色々と伺うことも多いです。
診断
診断は基本的に除外診断になります。
「あの病気でもこの病気でもないからアトピー性皮膚炎ですね」というような診断です。
ただある程度「アトピーかな?」と絞り込めるような症状もあります。
それは以下のようなもので、Favrotの診断基準と呼ばれています。
- 3歳以下での発症であること
- グルココルチコイド(ステロイド)が効くこと
- 初発時は痒みの症状だったこと
- 屋内飼育されていること
- 前手に症状があること
- 耳に病変があること
- 耳の縁には病変がないこと
- 腰に病変がないこと
検査
「これをやればアトピーが分かります」というような検査はありません。
アレルギー検査も存在しますが、何でもわかるわけではなく、診断の補助に使うものです。
また、依頼する検査会社も重要で、当院では「動物アレルギー検査会社(AACL)」に依頼しています。
動物アレルギー検査会社(AACL)http://www.aacl.co.jp/
治療
犬のアトピー性皮膚炎にはガイドラインが存在し、様々な治療が含まれています。
ガイドラインの解釈の仕方、犬の状態などにより影響を受けるので、実際の治療法も多岐にわたります。
以下では当院で使用している薬剤などを簡単に解説します。
お薬による治療
アトピー性皮膚炎の子はお薬の投与が欠かせないことがほとんどです。
色々な薬が存在するので、特徴を簡単に解説します。
プレドニゾロン
いわゆるステロイドです。
古典的なお薬ですが、非常によく効いてくれます。
とにかく薬価が安く非常に使いやすい点も大きなメリットです。
しかし、ほかのお薬と比べると副作用も多く、その点で使えないこともあります。
シクロスポリン
免疫調整薬という種類のお薬です。
効果を示してくれる子には非常に有効で、場合によっては週に2回の投薬まで減薬できます。
デメリットは効果が出るまでに2~4週間かかってしまうので、今まさにかゆい子には使いにくいこと、嘔吐の副作用が出やすいことです。
アポキル(オクラシチニブ)
比較的新しいかゆみ止めのお薬です。
プレドニゾロンと比べると副作用も少なく、効果が出るまでの時間も早いので、非常に使いやすいお薬です。
「色々検査が終わっていないけれど、とりあえずかゆみを止めたい」という状況では頼りがいのあるお薬でもあります。
また、少し前におやつタイプの製品も出たので、お薬が苦手な子にもおすすめです。
デメリットはプレドニゾロンに比べると薬価が高いこと、1日1回の投薬ではかゆい子がいることです。
ゼンレリア(イルノシチニブ)
2024年11月に発売された非常に新しいお薬です。
アポキルと似たような系統のお薬で、痒みをしっかり止めてくれると思います。
しかし、発売してからの時間があまりに浅いので、今後の報告に期待が持たれます。
当院ではひとまず、アポキルなどで十分にコントロールできない子に使用していくことになると思います。
サイトポイント(ロキベトマブ)
注射投与で約1ヶ月効くお薬です。
最初効かなかった場合も、続けることで効果が表れてくれることがあるので、2回以上は投与してから判断してもらうようにしています。
最大のメリットは副作用の少なさで、他のお薬との組み合わせも安全に行えます。
皮膚自体の正常化
アトピー性皮膚炎の子の皮膚は乾燥しやすく、環境アレルゲンを通してしまいやすいことが知られています。
そのため、保湿と脂肪酸製剤の投与により、皮膚自体を正常へ近づけます。
保湿
保湿は様々な製品があり、その子の状態や性格により使い分けます。
重要なポイントは、効果をすぐには実感できないことです。使い続けていくと明らかに皮膚の調子がよくなることも多いので、根気強く続けてあげてください。
ダーマモイストバス
当院でよく使う保湿剤です。
入浴剤のような使い方の製品で、シャンプー後にドボンとつければ保湿完了という便利な製品です。
コストパフォーマンスが高い点も優秀です。
ダームワン
イメージとしては化粧水のような保湿剤です。
週に2〜3回、肌に塗り保湿ができます。
痒いところがポイントで決まっている子には使いやすい製品です。
脂肪酸製剤
皮膚のバリア機能(環境アレルゲンの侵入を防ぐ能力)の強化に脂肪酸が有効です。
多くの皮膚用フードにも脂肪酸が多く含まれています(だからカロリーも高いのですが…)。
また、サプリメントも多く発売されており、代表的なサプリはアンチノールです。
その他の治療
アトピー性皮膚炎はよくある病気ですが、コントロールが難しいことも多いため、色々な治療法が存在します。
その中でも有名なものを紹介します。
減感作療法
人でも花粉症で取り入れられている治療法です。
弱いアレルゲンから順に体を慣らしていけば、徐々にアレルギー症状がおさまるというのがこの治療です。
犬のアトピー性皮膚炎に対してもお薬が開発されており、アレルミューンという商品があります。
1週間ごとにサイズの異なるアレルミューンを投与していき、計6週間で治療終了というものです。
これでアトピーが治ることは少ないですが、お薬の減量ができることがあるので、大量のお薬を飲まないと痒い子には試す価値のある治療です。
腸活
人の健康維持でも話題になっている腸活はアトピー性皮膚炎の子にも有効です。
腸内細菌叢(腸内の善玉菌と悪玉菌のバランス)を整えると、必要な投薬量が減少することがあります。
いまいちピンとこない話だとは思いますが、きっちりとした研究結果も出ており、今後どんどん広がっていくのかもしれません。
当院は専門の講座を受講済のため、皮膚科に特化したサプリメントを使用できます。ご興味がある方はお声がけください。
以上がよく当院で使用する治療の選択肢です。
この中から色々と組み合わせたり、薬の量を調節し、ちょうど良い状態に持ち込めれば、アトピー性皮膚炎が安定します。
まとめ
アトピー性皮膚炎に関してまとめましたが、これでも軽く全体に触れた程度の内容です。
実際には、アトピー性皮膚炎と同時に起きやすい病気の発生、内分泌疾患(ホルモンの病気)の存在、食物アレルギーの併発などで複雑な状態になっている時も多く、安定するまで時間がかかる時もあります。
ただ、幸いにも情報が非常に多い病気ではあるので、諦めることがなければ最終的には安定してくれることが多いです。
ぜひ一緒に頑張らせてください。