猫の慢性腎臓病(CKD)について
猫の慢性腎臓病(chronic kidney disease CKD)は猫の飼い主様の間では非常に有名な病気ではないでしょうか。
CKDはよく診断される病気ですが、非常に奥が深く、難しい病気です。
CKDについて解説を行うので、ご参考になれば幸いです。
猫の慢性腎臓病とは
そもそも慢性腎臓病とは何でしょうか。
慢性腎臓病は「何らかの原因で腎臓の機能が3か月以上低下した状態」を指す病名です。
3か月以上腎臓が悪い病気をまとめて慢性腎臓病と言うと解釈してもいいかもしれません。
ちなみに、似た言葉で「腎不全」という言葉があります。
腎不全は「腎臓が悪い」という状態を指す言葉です。
ひと昔前は「慢性腎不全(CRF)」と「慢性腎臓病(CKD)」という言葉が混ざり合って非常にわかりづらかったのですが、現在は用語が整理され、ほとんどの表記が慢性腎臓病となっています。
猫の慢性腎臓病(CKD)の原因は?
猫の慢性腎臓病の原因には様々なものがあります。
最も多い原因が「間質性腎炎」という病気と言われているのですが、診断のためには腎臓を一部採らないといけないので、診断することはほぼありません。
他の原因としては、腎臓の腫瘍、尿管結石、FIP、腎盂腎炎、多発性嚢胞腎などがあげられます。
猫の慢性腎臓病(CKD)の診断は?
CKDの診断は、実を言うとそこまで簡単ではありません。
よくあるのが「尿が薄いので腎臓病」「血液検査で腎臓の数値が高いので腎臓病」と診断するというパターンです。
確かに「CKDかも」とは思うのですが、これでは腎臓の腫瘍や尿管結石を見落とします。
なので診断をする際は、血液検査、尿検査、レントゲン検査、エコー検査など様々な検査を組み合わせ、総合した結果で判断を下します。
猫の慢性腎臓病(CKD)の治療は?
CKDで最も難しいのが治療です。
まず大前提として、残念ながらCKDは治りません。
いかにして残された腎機能で元気に過ごすかが最大のポイントになります。
以下で主な治療について解説します。
脱水の治療
CKDの子は、病気が進行すると体が脱水を起こします。
そのため、点滴で水分を補給するという発想になるのですが、その前にもっと大事なことがあります。
それは、自分の口から水分をとってもらうということです。
「それができないから困っている」というお声をよくいただくのですが、それでも大事な事なので、診察の際には何回もお伝えすることが多いポイントです。
飲水量を増やす
飲水量が増えればその分点滴の回数が減ります。
そうすれば、猫さんは痛い思いをする回数が減るし、長い闘病にかかる費用も圧縮できます。
根気よく方法を探し、飲水量を増やしてあげてください。
- ・噴水型の水入れを使用する
- ・水をこまめに変える
- ・香りをつける(鶏肉を湯がいた煮汁など)
- ・器を常に清潔に保つ
- ・陶器の器に変える
- ・口が広いものを使う
- ・色々なところに置く
- ・ウェットフードを使用する
- ・食事回数を増やす
皮下点滴
通院で行う点滴で水分を補給できます。
勘違いされがちですが、栄養は入っていません。
水分とビタミンくらいしか補給できていませんし、やや専門的になりますが、皮下点滴で補充できるのは細胞の外の水のみです。
CKDによる脱水では、細胞の内側の水も失われているので、ご飯を食べて細胞の内側に水を引っ張り込む必要があります。
他によくある質問として、「どのくらいの量、どのくらいの頻度で?」という質問があります。
大体目安としては体重1㎏あたり、30~50mlの点滴を1~3日おきくらいがよくあるパターンです。
ただ、個体差、他の病気を持ってるかどうかも影響を及ぼすので、調整が必要です。
たんぱく質を制限
腎臓病の子は、たんぱく質を取りすぎると体調が悪くなります。
なので、たんぱく質が制限されている腎臓病療法食にフードを変更することが多いです。
問題は療法食を食べてくれない子がいることなのですが、現在はフードの選択肢も多いので、うまく食べてくれる子が多い印象があります。
なかなか食べてくれない子には、徐々に混ぜ込む、フードの袋にだしのパックを入れて香りを移すなど、あの手この手で食べてもらえないかチャレンジしてもらいます。
リン制限
リンと呼ばれる物質を制限したほうが、CKDの猫さんが長生きできることが知られています。
もちろん療法食はリンを制限しているので、療法食を食べてリンがコントロールできていれば、特に気にすることはありません。
問題は療法食を食べられない子、療法食を食べているがリンが溜まってしまう子で、この子たちはリン吸着材と呼ばれるお薬でリンをコントロールします。
ちなみに、たんぱく質もそうですが病気でもないのに腎臓病療法食を始めると、他の病気(高Ca血症。筋量低下など)を引き起こすので絶対に控えてください。
高血圧の治療
CKDの猫さんは高確率(6~7割)で高血圧になっています。
高血圧自体は人でもなじみのある病気なので、ご存じの方も多いかもしれませんが、意外と怖い病気です。
高血圧自体が腎臓に負荷をかけますし、網膜剥離による失明を起こすこともあります。
人と違って正確な血圧が測りにくいので(多くの猫は緊張状態でやや高血圧気味)、複数回の測定が必要になります。
当院ではCKDの患者さんは診察前に血圧のみ測らせていただき、できるだけ正確な血圧の把握に努めています。
貧血
体内で血を作る指示を出す細胞が腎臓に集まっており、CKDではその細胞が機能しにくくなることで、貧血が起こります。
指示を出す細胞を復活させることは難しいので、治療にはホルモン製剤を使用し、このホルモンの作用で、体が血を作れるようにしてあげます。
この時、急速に体内で鉄分が使用されるので、併せて鉄材の投与も行います。
(鉄材の補給のみでは腎性の貧血は改善しません)
腎臓を保護するお薬を飲む
猫の腎臓病治療では有名なお薬である、ラプロスの内服を行うことも多いです。
ラプロスの効果は少し複雑なので詳細は省略しますが、色々な面から腎臓を保護するような効果があるお薬だと理解してもらうのがいいかなと思っています。
食欲不振への対応
CKDの猫さんは色々な原因から、食欲が不安定になりがちです。
必要に応じてお薬によるサポートを行います。
当院では主にミルタザピン軟膏とエルーラを使用しています。
その他
猫のCKDは非常に多い病気なので、色々な人が色々な考えで治療を行っています。
特にバリエーションが多いのがサプリメントで、これは良さそうと思えるものから、怪しげなものまで様々です。
CKDに対するサプリメントの効果は、長い目で見て状態が少し良くなりそうという程度のものがほとんどです。
なので当院としては、「標準的な検査・治療を一通り実施しており、それにプラスして何かしてあげたい」という方が使用するものだと考えています。
当院でCKD向けに使うことのあるサプリメントを以下で紹介しておきます。
アミンアバスト
アミノ酸のサプリメントです。
猫は肉食動物なので、たんぱく質を多く食べ、アミノ酸に分解し利用することで、体を動かしています。
しかし、たんぱく質を分解するときに発生する有害物質がCKDの子はうまく処理できません。
そのため、たんぱく質を制限しなくてはいけません。
「じゃあ、たんぱく質を分解し終えた後の物質であるアミノ酸を直接投与してしまおう」というのが、このサプリメントです。
猫の嗜好性も比較的良いことが多いそうなので、アミンアバストかアンチノールを出すことが多いです。
アンチノール
有名なサプリメントで、皮膚、骨関節、腎臓と幅広く効果があると言われています。
抗炎症、抗酸化作用があり、確かに皮膚や関節の病気など、症状と効果が分かりやすい病気に使用すると、明らかに効果が出る時があります。
CKDも細かく見ていくと炎症と酸化反応が関わる病気のため、一定の効果を期待しても良いかなと思っています。
腸活系のサプリメント
最近流行りの腸活は、CKDにも有効と言われています。
CKDでは尿毒症症状と呼ばれる様々な症状が発生します。
この尿毒症の原因物質を、腸内のいわゆる善玉菌が抑制するのではないかと言われています。
この分野は現在研究が活発なようなので、今後新しいサプリメントが出てくるかもしれません。
現在比較的よく使用されているのはアゾディルというサプリメントです。
常に在庫している商品ではないので、ご興味がある方はお声かけください。
まとめ
猫のCKDは検査すべきことも治療の内容も多く、難しい病気です。
当院では猫さんとオーナーさんに負担が少ないよう、相談しながら治療の調整もさせていただくので、お気軽にご相談ください。